オバマ元大統領の回顧録『約束の地』が出版された当初、日本の鳩山元首相の描写について物議を醸しましたが、他国の首脳はどのように描かれていたのでしょうか。
【ドイツ】アンゲラ・メルケル首相
Merkel, the daughter of a Lutheran pastor, had grown up in Communist East Germany, keeping her head down and earning a PhD in quantum chemistry. Only after the Iron Curtain fell did she enter politics, methodically moving up the ranks of the center-right Christian Democratic Union party with a combination of organizational skill, strategic acumen, and unwavering patience. Merkel’s eyes were big and bright blue and could be touched by turns with frustration, amusement, or hints of sorrow. Otherwise, her stolid appearance reflected her no-nonsense, analytical sensibility. She was famously suspicious of emotional outbursts or overblown rhetoric, and her team would later confess that she’d been initially skeptical of me precisely because of my oratorical skills. I took no offense, figuring that in a German leader, an aversion to possible demagoguery was probably a healthy thing.
Obama, Barack. A Promised Land. Crown, Nov 17, 2020
(筆者訳)
ルター派牧師の家に生まれ、共産主義東ドイツで育ったメルケルは、黙々と目立たずに過ごし量子化学の博士号を取得した。政治の世界に足を踏み入れたのは「鉄のカーテン」が崩落してからのことである。ひとたび政治の世界に入ると、メルケルはその調整力、戦略的洞察力、そして揺るぎない辛抱強さを武器に中道右派のドイツキリスト教民主同盟党で着々と地位を築いていった。彼女のその大きく明るい青色をした目には、苛立ち、喜び、そして微かな悲しみが変わる変わる見られることもあった。しかしたいていは、感情を見せることはなく、その様子は率直で分析的な彼女の感性の表れであった。メルケルは感情の爆発と大げさなレトリックに不信感を持っていることはよく知られており、後に彼女の側近たちが明かしてくれたことだが、最初は私にも疑心を持っていたそうだ。その理由はまさに私が演説を得意としていたことに外ならない。私は別に不快には思っていない。ドイツを率いるにあたり、デマゴーグの可能性に対して嫌悪感を抱くことは恐らく健全なことであると思うから。
【フランス】ニコラ・サルコジ大統領
Sarkozy, on the other hand, was all emotional outbursts and overblown rhetoric. With his dark, expressive, vaguely Mediterranean features (he was half Hungarian and a quarter Greek Jew) and small stature (he was about five foot five but wore lifts in his shoes to make himself taller), he looked like a figure out of a Toulouse-Lautrec painting. Despite coming from a wealthy family, he readily admitted that his ambitions were fueled in part by a lifelong sense of being an outsider.(中略)What Sarkozy lacked in ideological consistency, he made up for in boldness, charm, and manic energy. Indeed, conversations with Sarkozy were by turns amusing and exasperating, his hands in perpetual motion, his chest thrust out like a bantam cock’s, his personal translator (unlike Merkel, he spoke limited English) always beside him to frantically mirror his every gesture and intonation as the conversation swooped from flattery to bluster to genuine insight, never straying far from his primary, barely disguised interest, which was to be at the center of the action and take credit for whatever it was that might be worth taking credit for.
Obama, Barack. A Promised Land. Crown, Nov 17, 2020
(筆者訳)
一方でサルコジは、感情の爆発と大げさなレトリックばかりだった。色黒で表情豊かでかすかに地中海的(彼は2分の1ハンガリー、4分の1ギリシャ系ユダヤ人の血を引いている)な見た目と身長の低さ(165cmほどだがそれより高く見せるため上げ底靴を履いていた)がゆえに、まるでトゥールーズ=ロートレックの絵画に描かれた人物が出てきたかのようであった。裕福な家庭に育ったが、自分の野心の源は、常に抱いてきた部外者であるという感覚にもあると躊躇なく認めた。(中略)サルコジはイデオロギーの一貫性を欠いていたが、その分を大胆さ、人を引きつける力、そして熱狂的なエネルギーで補っていた。実際、サルコジと話すと喜びと憤慨が交代にやってくるようだった。彼は話す時絶え間なく手を動かしていたし、チャボのように胸を突き出していた。専属の通訳者(メルケルと違ってサルコジの英語力は限定的だった)が常に側にいて、会話がお世辞からどなりちらし、そして嘘のない考察へと移るのに合わせて、サルコジのジェスチャーや抑揚も必死に真似て通訳したのだった。サルコジとの会話は、フランスの大統領予備選という彼の関心事(彼はそれを特に隠そうともしていなかった)から常に大きく逸脱することはなかった。後に私が話したことが彼の選挙戦の中心となり、私の手柄となるのであった。手柄とするべきものがあるとすれば、だが。
ヨーロッパで影響力を持つドイツとフランスの指導者二人の描写は、とても対照的です。この後の段落で “it wasn’t hard to tell which of the two European leaders would prove to be the more reliable partner.” (この二人のヨーロッパの指導者のうちどちらが頼れるパートナーとなるかはすぐにわかった)と書かれている通り、ドイツのメルケル首相の方を評価してようです。
【ロシア】ドミトリー・メドヴェージェフ大統領
In other words, Medvedev was a technocrat and a behind-the-scenes operator, without much of a public profile or political base of his own. And that’s exactly how he came across when he arrived for our meeting at Winfield House, the U.S. ambassador’s elegant residence on the outskirts of London. He was a small man, dark-haired and affable, with a slightly formal, almost self-deprecating manner, more international management consultant than politician or party apparatchik. Apparently he understood English, although he preferred speaking with a translator.
Obama, Barack. A Promised Land. Crown, Nov 17, 2020
(筆者訳)
言い換えれば、メドヴェージェフはテクノクラートであり寝わざ師であり、公にあまり知られていなければ彼自身の政治基盤も持っていなかったのだ。そしてそれが彼が会談(ロンドン郊外にある上品な米国大使邸ウィンフィールド・ハウスで行われた)に到着した時に私が持った印象そのものであった。彼は背が小さく、髪の色は濃くて愛想はよかった。だがどことなく堅苦しくまるで自分を卑下したような物腰で、政治家や党官僚というよりは国際経営コンサルタントといった感じだった。彼は英語を理解しているようだったが、通訳を介して話すことを好んだ。
メドヴェージェフは大統領でありながらも、首相の座についていたプーチン大統領が裏で糸を引いていたことは明らか。オバマ大統領も “Looking over his biography, I could see why everyone assumed Dmitry Medvedev was on a short leash.” (ドミトリー・メドヴェージェフの経歴を眺めると、彼は厳しいコントロール化にあるのではないかと言われている所以がわかった。) と書いています。その経歴というのは、1990年代初頭、ソ連崩壊後のサンクトペテルブルク市の市長のもとで働いている時に同僚であったプーチンと出会い、その後は政治の世界から離れ事業家として成功した後、1999年にプーチンの招きで政府の要職についた。そしてわずか数ヶ月後にエリツィン大統領が突然辞任したことからプーチンが大統領代理となり、それに伴いメドヴェージェフも地位が上がっていったというもの。
次回は鳩山首相と天皇・皇后(現在の上皇・上皇后)両陛下の描写を取り上げます。
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